排泄のストレスを排泄する
このインタビューは 2017 年時点のものです。
story vol.2
株式会社aba 代表取締役社長
宇井吉美
においで尿と便を検知する非装着型の排泄センサー
-排泄センサーHelppadはどのような製品なのですか?
Helppadは介護用の排泄センサーです。シート全体から排泄物の匂いを吸引して、中に入っているセンサーが尿と便の両方を検知します。
ベッドに敷くだけで設置が完了するので、体に何も装着する必要がないというのがひとつの特長です。
排泄を検知すると、ベッドの近くにあるリモコンやケアスタッフが持っている受信機に通知されます。また、パソコンの専用アプリケーションにも通知がいくことで、排泄があったことを介護している人に的確にお伝えすることができます。
薄いシート型でベッドに横になっても寝心地を邪魔することはない
現場の声を集めながら開発した9年
-長い開発を経て完成した今の想いはいかがですか?
わたしが以前働いていた施設でケアスタッフさんから「オムツを開けずに中を見たい」と言われたのが開発を始めるきっかけだったのですが、それから数えるともう9年ぐらい経っていますね(笑)。
発売もひとつの通過点というか、やっと使ってもらえるスタート地点に立てたなというのが率直な感想です。
長い開発期間の中で、すごくたくさんの人に勇気を与えていただきました。
最初は私一人でやりたいと言って始めたわけなのですが、今このプロジェクトに関わっている人は数十人いて、応援していただいている人も含めれば数百人になります。
私一人がやりたいと言っていたものが、今みんなの望んでいるものになっているということが一番嬉しいです。
長年開発をともにしているエンジニアチームも介護現場への想いは強い
日々の生活に負担をかけない設計
ー開発において、特に気をつけたことはどんなところでしょうか?
わたしが介護施設で働いていた経験も活かして、まずはケアスタッフさんのオペレーションを乱さないということを考えました。
Helppadをシート型にしたのは、体に装着しないためという理由も大きいですが、普段防水シーツやシーツを敷くというのはケアスタッフさんが日々のお仕事でよくやることなんですね。
そのベットメイキングの作業の流れにひとつ加えていただくだけで、排泄を検出できるようにしたいと考えました。
あと当たり前のことですけど、やっぱりケアスタッフさんの一番の望みは入居者さんの幸せだと思うんです。
なので、入居者の方が負担のない生活を送ることにこだわって、なるべく存在感のないプロダクトとして設計していきました。
使うほどに精度が上がる、育てていく製品です
ー介護現場ではどのように役立つと思いますか?
おむつを交換するタイミングというのはできるだけ一人ひとりにあわせたいですが、なかなか業務の都合上できなくて、定時でオムツを変えたり、交換が遅れてしまったりすると思います。
Helppadをお使いいただければ、少しずつ入居者さんのタイミングにあわせてオムツを交換することが可能になっていきます。
排泄があれば通知がきますし、使い続けていただければデータを蓄積して正確な排泄パターン表を自動で作成していきます。
その中でいつごろ排泄があるかがだんだん予測できるようになっていきます。
Helppadは使いながら育てていく製品だと捉えていただければと思います。
介護現場のみなさんにたくさん使っていただくことで、より新たな開発もできますし、その開発によって介護現場がより働きやすい環境になっていくと信じています。
IoTで介護業界を変革するHelppad
排泄のストレスを排泄したい
ーこれからどのように介護現場をサポートしていきたいですか?
わたしはHelppadで「排泄のストレスを排泄したい」と強く思っています。
排泄っていうと汚いイメージがあると思うのですが、本来悪いものを外に出すというとてもポジティブな意味なんですよね。
離職率も高い介護現場のストレスを少しでも和らげられたらと思います。
介護はしすぎても、足りなくてもいけない繊細でクリエイティブな仕事です。
弊社のビジョンでもある「必要な時に必要な分だけの介護」を、テクノロジーをうまく活用しながら実現して、未来の介護を支えていきたいです。
Profile
宇井吉美
千葉工業大学卒。2011年、在学中に株式会社abaを設立し代表取締役に就任。中学時代に祖母がうつ病を発症し、介護者となる。その中で得た「介護者側の負担を減らしたい」という思いから、介護者を支えるためのロボット開発の道に進む。特別養護老人ホームにて、介護職による排泄介助の壮絶な現場を見たことをきっかけとして、においセンサーで排泄を検知する「排泄センサーHelppad(ヘルプパッド)」の製品化に向かう。