Helppadが全国に普及した時、介護の現場は変わると思います
このインタビューは 2017 年時点のものです。
story vol.1
ユアハウス弥生 所長
飯塚裕久
今までにない介護の場所をつくりたい
-普段はどのようなお仕事をされているのですか?
ユアハウス弥生という小規模多機能型居宅介護(※)を中心に、訪問介護の事業や介護の学校などの事業をさせていただいています。
私は祖母の代から介護の仕事をしてきた家に生まれました。
戦後は8割くらいの方が病院や施設ではなく、自宅で亡くなられていたんですね。
家で亡くなっていくときは誰か人の力が必要だということで、ナースをしていたうちの祖母が、亡くなりそうな方の家に戦争未亡人たちを派遣するという仕事をはじめました。
その後その仕事を母が継ぐようになり、介護という仕事も世の中に定着してきました。
ただ、家業でやっていたこともあり仕事が忙しすぎて、家族がバタバタと倒れていくんです(笑)。
これはどうにかしないといけないと、当時大学に行っていた私は大学を辞めて家業を手伝うようになり、私も一人のヘルパーとして介護が必要な方のご自宅にお伺いしていました。
縁あって2006年に一つ事業所をやらないかという話をいただき、どうせやるんだったら今までにないような場所を作りたいなと思って今に至ります。
入居者さんご本人が自分の人生を選んで生きている姿を見ると、やっぱり嬉しいんですよ。
介護の仕事をもっと楽しいものに変えていきたいと日々思っています。
飯塚さんはその情熱で介護業界で革新的な挑戦を続けてきた
- aba 宇井さんとの出会いのきっかけはなんだったのでしょうか?
2013年ぐらいだったでしょうか、私がやっていた介護のイベントに来てくれたんです。
いきなり「私、介護機器をつくってるんです!」と前のめりに色々言ってくるんですけど、ちょっとよくわからなくてですね(笑)。
ただ、なんだか常人ならぬ情熱があって、何かをやりたい人だなということについては印象が残っていたんです。
後日またお会いする機会があって、詳しくお話を伺うことができたんです。
私はずっと、この業界にないものをたくさん生み出していきたいなあと思っているのですが、ひょっとしたらこの子ならこの業界にないものを作ることができるのかもしれないと感じて、うちでちょっと働きませんかとお誘いさせていただいたんです。
宇井さんはすぐに現場に馴染んで、入居者さんとの信頼関係を築いていったという
現場で働きながら開発する人は他にきっといないでしょう
ーHelppadを開発する中で、どのような相談を受けていたんですか?
宇井さんからは「結婚します!」とか、「子供産まれます!」とか、「結婚式に入居者さんを招待してもいいですか!?」とかそういう連絡をもらうばかりなのですが(笑)。
そんな中で、「排泄センサーを施設でテストさせてください!どうせ飯塚さんが機械見てもわからないだろうから、私が夜勤に入ります!」という相談がありまして。
宇井さんは自分で納得しないと前に進めない人なので、一回は全部自分でやってみるということにこだわられていました。
そんな介護機器の作り方ができる人もそう多くはないと思いますので、すごいなあと感心しながらテストの様子を見守っていました。
人にしかできないことにもっと時間を使うために
ー介護現場で感じている排泄ケアの課題などはありますか?
多くのケアスタッフさんは夜に入居者さんのオムツを開けるという仕事をするわけです。
一晩に3回くらい、何か出てないかなって脱がすんですよ。
脱がす方も、脱がされる方も普通嫌ですよね。
100人くらい入居者さんがいらっしゃる大きい施設だったら、1人3回で100人の計算だと、1日300回オムツ開けてるんですよ、ケアスタッフが。
それって、働く人にとっても経営的にも大きな課題だと思います。
その回数を減らすことで、どのくらい別のことに時間が使えるかなって思うわけですね。
仮に2時間ケアスタッフに余裕ができたとしましょう。
その時にすごく不安を抱かれて落ち着かない入居者さんに2時間付き添えるじゃないですか。
一緒にお茶を飲んで、顔見て話をして、ご安心いただくみたいなことって、人にしかできないんです。
Helppadは人にしかできない仕事の時間を増やしていく製品だと私は思っています。
人じゃなくてもできる部分については、テクノロジーにやってもらうことで、どんどん人が人と関わる時間が増えていく、そういうことを現場は望んでいるんですよね。
入居者さんとの思い出をまとめた冊子から、その信頼関係が伝わってくる
介護はハッピーを大きくする仕事
ーHelppadにこれから期待するのはどんなことでしょうか?
Helppadが全国に普及した時には、介護の現場は変わると思います。
夜勤が怖くなくなるとか、仮眠が取れるようになるとか、入居者さんとケアスタッフさんの関係が今よりも温かい関係性になっていくんじゃないかと思います。
もしHelppadのおかげで、夜勤中に2時間体が空く時間ができたとしたら、ケアスタッフはその2時間をより有効に活用できるように、努力をしていかなきゃいけないと思います。
介護っていうのは技術であり、福祉のためのひとつの手段なんですね。
福祉っていうのは漢字で書くと、実は両方ともハッピーという意味なんですよ。
介護っていう技術自体は福っていうハッピーと、祉っていうハッピーを大きくしていって、その人の中に留まらせる技術とか、手段だったりするわけです。
人を幸せにするって結構誰でもできるわけですけれど、でも介護という技術を使うと、普通の人よりも大きい幸せを提供することができるんです。
人に幸せをたくさん与えられる人っていいと思いませんか?
そんなやりがいのある仕事をされているケアスタッフの方々が、Helppadによってもっとその力を発揮できるようになる。
そんなことを心から期待しています。
Profile
飯塚裕久
株式会社ケアワーク弥生 専務取締役、株式会社LIXIS 取締役
東京医科歯科大学で臨床検査技術を学んだ後、「ユアハウス弥生(現運営事業者名:株式会社ケアワーク弥生)」の経営を引き継ぐ。
若手介護職員向けのビジネススクールKAIGO LAB SCHOOLの副学長も務める。
介護の現場で働く人たちが、課題を話し合い、解決を目指す「もんじゅミーティング」を主催。
くさか里樹著の介護漫画「ヘルプマン!」22~24巻の主人公として登場する飛石亘(とびいし・わたる)のモデルとしても有名。